BUSINESS TREND 【第3回】プロスポーツチーム初の上場を目指して 2020.01.29
卓球や沖縄愛、そして自身の理念だけでは、プロスポーツチーム運営は出来るわけがない。そこには、これまで数々の事業を経営し、多くの中小企業の経営コンサルティングを行ってきた早川氏のビジネス手腕が光っている。
今回はプロスポーツチームのビジネス運営について語っていただく。
目の当たりにしたスポーツ業界の現状
未経験のスポーツ業界に挑戦した早川氏だったが、ビジネス業界との違いに当初戸惑ったという。
「引き受けた時から様々な企業に対してスポンサー営業を行うわけなのですが、スポーツに対してお金を出すという考えが、日本企業には殆どと言っていい程ないんですよね。
なぜかと考えた時に、多くのスポーツチーム運営会社に足りないものが3点あると思ったんです。
まず1点目はガバナンスが効いていない点。例えば、経理と財務が一緒であったり、外部監査人や顧問弁護士がいなかったりなど、会社としての当たり前の機能が働いていない会社が多いんです。当然ながら、そういった会社にはお金を出そうとはしませんよね。
そして、2点目は、ディスクロージャーされていない企業が多い点です。スポンサーとしてお金を出したのに、そのお金がどのように使われるのか、どのように残るのか、不透明なわけです。
最後にプライシングされていないという点です。日本では、プロスポーツチームでまだ1社も上場している会社がありません。なぜかと言うと、株式公開を原則規制しているルールが張られているリーグが多いんです。上場していないということは、市場から一度もプライシングを受けていない。本来であれば、夢を与えるという意味でお金が回っていなければならないスポーツ業界で、それがなされていない。その構造自体を我々は大きく変えていきたいと思っています。そして、幸いにもTリーグには株式公開の規制はないので、現在我々琉球アスティーダは上場を目指していて、今まさに準備を急ピッチで進めているところです。」
プロスポーツチームと言えば、切っても切り離せないのがスポンサー。早川氏はスポンサーについても、これまでとは違った意見を持っている。
「更にいうと、今までのスポーツチームの収益構造というのが、スポンサー頼りなんです。それを、株主から支えられるチーム構造にしていきたいと思っています。例えば、ある一定の株を保有すれば、冠試合をプレゼントだとか、ユニフォームに表示されるとか…。スポンサー頼りの経営をしていると、スポンサーの業績が悪くなった瞬間にチームの経営も悪化してしまうわけです。それを脱しないといけないんです。
また、昨年、楽天が台湾の大きな野球球団を買収しましたが、なぜ、企業がスポーツにお金を出し始めているかというと、楽天がまさにそうですが、BtoCのマーケットを狙う企業にとってスポーツは非常に有効なんですよね。つまり、ファンビジネスということです。BtoC市場では、もっとスポーツが有効に使われるべきだと思っています。ただ、先ほども申したように、スポーツチーム自体の機能が完全に備わってないと、その段階にすら行けないのです。」
「スポ―ツ×〇〇」でスポーツ業界に既成概念を変えていく
スポンサー頼りの経営ではなく、株主資本に基づいた経営を目指すという早川氏。脱スポンサーとなると、実業としての数字も必要になってくるわけであるが、そこは早川氏の得意としてきたところ。次々と浮かぶ構想で、これまでのスポーツ業界にはなかったことを実現し続けている。
「これまでのスポーツ業界や卓球業界の既成概念を変える取り組みをしています。例えば、アルマーニもスポンサーなんですが、「卓球=ダサい」というイメージを「かっこいい」に変えて行こうということで、移動中、選手は原則アルマーニ着せています。」
アルマーニの衣装に身を包む吉村 真晴選手(HPより)
「DFSギャラリア・沖縄もスポンサーですが、台湾や中国人の観光客が多いので、定期的に卓球台を持ち込んで選手がDFSで卓球をやっています。既成概念を変えていくことで、ファン層が広がっていき、琉球アスティーダに興味を持ってもらえる。その仕掛けを今ひたすら作っている感じですね。」
ビジネスの話となると、早川氏のトークの勢いは更に加速する。
「また、最近では、スポーツ×〇〇ということにも力を入れています。例えば、飲食店で卓球が出来る卓球バルや約200名位入るスポーツバルなどを経営し、そちらでも数字を立てていくようにしています。他にも、スポーツ×ヘルステックというところでは、株式会社ユカシカドという会社があり、起床時の尿を採るとその時の栄養バランスがわかるという研究をされています。そこと提携することで、尿の状態でその日の試合がどうなるのか、パフォーマンスがどうなのかをデータで分析できるわけです。結果的にスポーツのパフォーマンスを上げるためにどういった栄養をとったらいいのかなどが解明されるかもしれません。今、選手たちがまさに研究に協力しているところです。最近では、スポーツ×VRにも取り掛かっていて、もうじきリリースされます。」
スポーツチーム初の上場に向けて
卓球が自身の志と合致し引き受けた「琉球アスティーダ」。プロスポーツチーム経営として、ガバナンス・ディスクロージャー・プライシングという普通の企業で当たり前の状態を同様に整え、その上で、スポンサー頼りではなく株主資本に基づいた経営をし、なおかつ+αで実業においてしっかり数字も立てていく。それが現在の早川氏によるスポーツチーム経営だ。そして、現在目下の目標は、日本初となるプロスポーツチームの上場だ。
「初めてのことなので、正直、きついですよね。類似企業がないわけなので、審査する側も難しいわけです。ただ、そこに関しては、我々はサービス業ではなく、BtoCのマーケティング会社としてスポーツを有効的に使う会社であると主張しています。仮想のインターネット上ではなく、直接お客さんにリーチできる、従来型のBtoCの最たるマーケティング会社だと訴求しているんです。
もしかしたら、琉球アスティーダが上場したあとに、Tリーグだけではなく、Bリーグで上がってくるチームが出たり、Jリーグの規則が変わったりするかもしれないですよね。そうなると、「スポーツ=儲からない」が「スポーツ=儲かる」という風に変わるかもしれない。いわば、歴史を変える作業をしていると自負しながら上場に向けて進んでいます。」
「正直、きつい。」インタビューの中で初めてネガティブなワードが出た。やはり、前例がないことをしようとしているだけあり、前途多難だが、そこは早川氏。それでも意気揚々と話す姿からは、上場の鐘を鳴らす姿が、目に浮かぶ。
既成概念を打ち破り、様々な仕掛けを繰り出す琉球アスティーダ早川周作氏。「スポーツ・卓球×早川氏」という公式で、これからも益々面白い、楽しいことが起こりそうな気がしてならない。
<<インタビュー最終>>
Writer:黒山裕子
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